低侵襲・新治療開発による個別化癌医療確立

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福田 恵一

福田 恵一  (ふくだ けいいち)

慶應義塾大学大学院医学研究科 生理系専攻 再生医学 教授

e-mail : kfukuda@sc.itc.keio.ac.jp

研究成果

再生医学研究室では21世紀COEにおいて、心筋再生の研究を中心に心臓病学全体におよぶ多方面の研究を展開してきた。胚性幹細胞、神経堤幹細胞、骨髄間葉系幹細胞からの心筋細胞誘導法の開発に加え、生体内での神経堤幹細胞、骨髄間葉系幹細胞の病態への関与等の研究を進めてきた。心臓病全体に関しては、心臓弁膜症の発症機序の解明、心臓交感神経の発生とその異常に伴う機能異常の解析等に関しても最先端の研究を展開してきた。21世紀COEの期間中、52報の英文誌に研究成果を報告したが、本稿ではその一部を紹介する。

マウス・サル・ヒト胚性幹細胞からの心筋細胞の分化誘導法の確立

マウスの発生段階に心臓予定領域に発現する種々の因子を探索し、これを胚性幹細胞に作用させることにより、効率的に心筋細胞に分化誘導する方法を開発した。その一つとしてNogginが同定された。Nogginはマウスの胎生7.5日の心臓予定領域(Cardiac Crescent)に約半日だけ出現する因子で、BMP (Bone morphogenetic protein)の内因性阻害物質である。BMP2およびBMP4は心臓の発生に重要な因子であることが知られていることから、 Nogginも心筋細胞の分化に関係していると考え、マウス胚性幹細胞にNogginを投与した。

Nogginにより効率的に心筋細胞が分化誘導されることを見出した(Yuasa, Nature Biotechnology 2005)。これ以外にも多くの因子が心臓予定領域に発現することを見出し、胚性幹細胞からの分化誘導に有用であることが認められ、現在研究を進めているところである。さらに、サル胚性幹細胞からの心筋細胞分化にも成功した(Chen, BBRC 2008)。

心筋細胞を用いた細胞シート工学の取り組み

再生医学教室ではフィブリノーゲンとトロンビン溶液を低濃度で混合し、培養皿をフィブリンポリマーでコートし、その上に心筋細胞を培養することで細胞をシート化する技術を開発した(Itabashi, Art Organ 2004)。細胞シートを移植することにより、安定した組織を作成できるとともに電気的にも心臓と結合した組織を作ることが出来た(Furuta, Circ Res 2006)。

心臓組織幹細胞としての神経堤幹細胞

心臓内には組織幹細胞が存在することが報告されているが、その詳細は判っていない。再生医学教室では心筋培養からneurosphere culture法で得られた細胞がclonalに増殖することを見出し、この細胞Nestin, Musashi1, p75NGF受容体を発現することから神経堤由来であることを推測した。これらの細胞はin vitroで培養すると神経、グリア、平滑筋、心筋に分化した。ラットのCardiosphere細胞をニワトリ胚の神経堤に移植すると遊走経路にそって移動し、神経、グリア、平滑筋に分化することを明らかにした。神経堤細胞を標識するP0-CRE/EGFP double transgenic mouseを作成すると神経堤由来の細胞が心筋に分化することが観察された。以上より、心筋組織幹細胞の少なくとも一部の細胞は神経堤由来であることが証明された(Tomita, J Cell Biol 2005)。

骨髄間葉系幹細胞の生体内での役割

骨髄間葉系幹細胞はin vitroで一部の細胞が心筋細胞に分化することを我々が以前報告したが、この細胞の生体内での働きを明らかにするために骨髄移植モデルを用いて研究を行った。GFPマウスの骨髄を致死量放射線を照射した同種マウスに骨髄移植することにより、骨髄細胞を置換したマウスを作成した、このマウスに心筋梗塞を作成し、梗塞周囲にGFP陽性心筋細胞を確認した。この細胞が造血幹細胞由来であるか、間葉系幹細胞由来であるかを明らかにするために、各々独立して幹細胞を移植して心筋細胞分化するかを観察した。その結果、これらのGFP陽性心筋は骨髄間葉系幹細胞由来であることが明らかになった(Kawada, Blood 2004)。また、圧負荷心肥大モデルを作成し、肥大心筋における骨髄細胞の関与を解析した。その結果、右室肥大、左室肥大とも肥大した部分の心室にGFP陽性心筋細胞が出現し、心肥大現象にも骨髄細胞の関与があることが示された(Endo, Circulation 2007)。

心臓弁膜症発症の分子機構の解明

心臓の弁は本来無血管であることが知られているが、心臓弁膜症の弁は多くの新生血管が観察されることが知られている。心臓弁の無血管性が保たれている機序として我々は心臓弁において軟骨で発現している血管新生阻害因子コンドロモジュリンー1が関与していることを見出した。コンドロモジュリンー1は正常弁膜の発現し、これを遺伝子ノックアウトすると心臓弁に血管新生、炎症細胞浸潤、脂肪沈着、石灰化が生じることを見出した。また、心臓弁膜症患者の心臓弁ではコンドロモジュリンー1の発現が低下したところに、炎症細胞浸潤、血管新生、MMPの活性化が生じ、心臓弁膜症の進展と逆相関していた。以上よりコンドロモジュリンー1が心臓弁に対し保護的に働くことが明らかとなった(Yoshioka、Nature Medicine 2006)。

心臓交感神経分布の分子機構と不整脈の関係

心臓交感神経は心臓から分泌される神経成長因子(NGF)により、心臓に誘導されるが、これを促進的に働かせるのは心筋細胞自身が分泌するエンドセリンであることを明らかにした。エンドセリンノックアウトマウスでは心臓に発現するNGFが低下し、これに伴い神経堤から心臓に遊走する交感神経は激減することを見出した(Ieda, J Clin Invest 2004)。また、心臓の交感神経は心表面を走向し垂直に分枝し、心外膜側に多く分布する。我々はこの機序を解明するため、セマフォリン3aのLacZノックインマウスを作成した。これを解析すると、セマフォリン3aは胎生早期には心内膜側心筋に抱負に存在し、発育とともに次第にその発現量は減少し、成体では心内膜側のプルキンエ細胞のみに発現するようになった。これに伴い、交感神経は心外膜側から心内膜側に浸潤した。セマフォリン3aのノックアウトマウス、過剰発現マウスでは交感神経の走向が異常となり、これに伴い多彩な不整脈が出現した(Ieda, Nature Medicine 2007)。

心不全における交感神経の幼若化

ラットにモノクロタリンを投与し肺高血圧を惹起することにより右室肥大・右心不全を作成した。心不全心筋では心臓交感神経が過剰分布(hyperinnervation)したものの、逆にその機能は低下の方向を示し、tyrosine hydroxylase、dopamine beta hydroxylase活性は低下し、ノルエピネフリン含量、ノルエピネフリン再吸収量も低下した。さらにこれらの交感神経は PSA-NCAM, GAP43等の幼若神経のマーカーも発現した。心不全心筋の交感神経は神経機能自体が幼若化を惹起することが明らかとなった(Kimura, Circ Res 2007)。

COE内共同研究

  • 虚血性疾患心筋再生を担う幹細胞に関する研究(慶應義塾大学生理学教室)
  • 心筋細胞の分化誘導と細胞移植に関する研究(慶應義塾大学循環器内科学教室)
  • 心筋細胞のメタボローム解析(慶應義塾大学医化学教室)
  • 角膜由来上皮細胞の細胞シート工学(慶應義塾大学眼科学教室)
  • 心臓弁膜症発症の分子機序の解明(慶應義塾大学産病理学教室)
  • 心臓弁膜症発症の分子機序の解明(慶應義塾大学心臓外科学教室)
  • マーモセットES細胞を用いた心筋細胞分化誘導と細胞移植に関する研究(実験動物中央研究所)

代表論文

  1. Ieda M, Kanazawa H, Kimura K, Hattori F, Ieda Y, Taniguchi M, Lee J-K, Kodama I, Matsumura K, Makino S, Ogawa S, Fukuda K. Sema3A establishes arrhythmia-free hearts via sympathetic innervation patterning. Nature Medicine 13, 604 - 612 , 2007
  2. Yoshioka M, Yuasa S, Kimura K, Kimura N, Matsumura K, Shiomi T, Shukunami C, Okada Y, Mukai M, Shin H, Yozu R, Ogawa S, Fukuda K. Chondromodulin-I maintains cardiac valvular function by preventing angiogenesis. Nature Medicine 12:1151-1159, 2006
  3. Yuasa S, Itabashi Y, Koshimizu Y, Tanaka T, Sugimura K, Kinoshita M, Hattori F, fukami S, Shimazaki T, Ogawa S, Okano H, Fukuda K. Transient and strong inhibition of BMP signals by Noggin induces cardiomyocyte differentiation in murine embryonic stem cells. Nature Biotechnology 23: 607-611,2005
  4. Tomita Y, Matsumura K, Wakamatsu Y, Matsuzaki Y, Shibuya I, Kawaguchi H, Ieda M, Kanakubo S, Shimazaki T, Ogawa S, Osumi N, Okano H, Fukuda K. Cardiac neural crest cells contribute to the dormant multipotent stem cell in the mammalian heart. J Cell Biol. 170: 11351146, 2005.
  5. Ieda M, Fukuda K, Kimura K, Hisaka Y, Kawaguchi H, Shimoda K, Takeshita E, Okano H, Kurihara Y, Kurihara H, Ishida J, Fukamizu A, Salamone L, Federoff HJ, Oagawa S. Endothelin-1 regulates cardiac sympathetic nerve innervation in the rodent heart by controlling nerve growth factor expression. J Clin Invest 113: 1-10, 2004

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